<2005.7.3> 蛍が迎える渓
・・・曇り・・・

此処久しくこの斜面を 人が降りた形跡は見当たらない

背丈程の雑草は足元の確認さえ侭ならず 掻き分け

慎重に足を運ぶ 最後の急斜面は立ち木に通したロープ

頼りに 一気に葦の密集する川床へと滑り落ちた

ここ数日の雨天は水位を押し上げやや白濁 水際まで

草付きが張り出すことで立入る事を拒む  流水の主は

覚醒を促され 全神経を流れ寄る糧へと注いでいるだろう


この数ヶ月 魅入られたかの様な体調不良に陥り

復活したての釣友が ベストポイントを前に挑む いざ!

グイッ! 空かさず起こる大物らしい反応? 両手で支えた

竿は極限まで撓っている しかし奴はピクリともしない・・・

痺れを切らしたのは釣師 ジリジリ後退 岸へと引き摺り

出す作戦か あっ々仕掛けが速すぎる!  ゴン!ゴン!

深みの底で 僅かに首を振った化け物は 鈍重な感触を

彼の両手に残し 命を伝えたラインは虚しく空を舞う

・・・茫然自失・・・・

気を取り直すには僅かな時間が要った 流れの背を越え

向こう側を攻める 又もや強い引き込み! 

しかし再生映像でも観る様な 一連動作の繰り返しと成る

奴の正体は 上へも下へも移動出来ない この場所に居座る化け物岩魚だろう? 昔はこんな風に良く遊ばれた

もので 未だに潜んで居たとは 無念の釣友には悪いが内心嬉しかった

魚信が途絶えたのを見計らい今回の挑戦を終えると 幾等か流れを下り とんとんと落ちて行く落ち込みの肩から

覗き込むように 餌のミミズを呉れてやる 此処は岩魚の付き場では無くヤマメ狙いと成ってくる  もっと流れの芯へ

流れに乗ったラインが 駆け上がり辺りにかからんとする刹那目印が止まった 間髪要れず呉れたあわせ バシャ!

飛沫を散らし引き込むのは 今日幾つも見てきた岩魚の其れとは違い 確かに銀色に光った  ・・・慎重に・・・

しかし其処は 大石が重なる向こう落ち込みの中 抜き上げは到底無理で 此の侭では何れラインは弾け飛ぶだろう

この魚をなんとか彼の手にさせたかった・・・  手網を

引っ手繰り流れに跳び込み取り込みに掛かる 嗚呼?

手網の口元が小さく収まらない それに段々まずい方へと

引かれて行く もっと張りを緩めて 既に0.6ラインは限界を

告げ出している 右発泡へと浮いた魚体を 飛び込みの

様な格好で救い上げる ザバッ! ふ〜っ中々の型だぁ


歓喜の釣友を前にも何故か 私の脳裏には昨夜の闇に

舞う 儚い蛍の光が目の前を音も無く過ぎ 浮かんでは

消えていた 無限の野に身を置いて 今為せる者が其々

精一杯の生き様を演じる しかし見慣れた佇まいは2昔

3昔前となんら変わる事は無い 生き続け此処に立ってる

その事実は 其れだけで意義深く素晴らしく思える


・・シャツの袖で顔を拭うと 釣友に笑い返した。・・

                            oozeki